秘密の地図を描こう
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幸い、と言うべきか。ミゲルは他の訓練生に捕まっていたが、ニコルはフリーだった。
「……確かに、早々に何とかすべきでしょうね」
それに関しては、と彼もうなずく。
「ちょうどいい。あの二人も巻き込みましょう」
そして、すぐにこう言って笑った。
「アマルフィ教官?」
「明日、キラが戻ってくると言うことで、押しかけてくる気満々の人間がいるんですよ」
彼らに協力をさせればいい、と彼はさらに笑みを深める。
「……ですが……」
「大丈夫です。彼らは絶対にキラを傷つけない。それだけはお約束します」
二人とも、自分と同じ元クルーゼ隊だ。彼はそう続けた。
「そうですか」
それだけでいったい誰のことかわかってしまう。
一人ははっきりとはうなずけないが、もう一人は確かにキラの味方になってくれるだろう。何よりも、彼はあの場にいたはずなのだ。
「そういえば、バスターもあそこにいたんでしたね」
あることを思いついた。そんな表情でニコルが呟く。そうすれば、彼もキラと同じでどこか幼げな印象を与える。だが、彼はキラと違ってわざとそうしているらしいのだ。
「バスターの戦闘データーを確保してきましょう」
それを使って全員参加のシミュレーションをしよう、と彼は呟く。
「アマルフィ教官……」
「適当にチーム分けをすればいいわけはつきます」
ついでに、一部をマニュアルで操作しましょう……と彼は続けた。
「それで彼がどのような反応を見せるか。それで判断をしましょう」
彼が変われるかどうかを、とニコルは言った。
「それでいいですね?」
確認を求めるように視線を向けられる。それにレイはうなずき返す。
「それはよかった。あぁ、明日ですが、二人がキラに『会いたい』と言っていますのでこちらに顔を出します。タイミングが合えば、あなたにも同席していただきたいのですが?」
どうしますか? と彼はレイに選択権をゆだねてくる。
「そうですね。できれば同席させていただきたいです」
もっとも、状況が許せば、だ。あまりふらふらと出歩いてはシンに疑念を抱かれかねない。
「では、その時間になったら呼び出しをかけさせていただきましょう」
教官が訓練生を呼び出すことはよくあることだ。だから、誰も疑念を抱かないのではないか。ニコルは微笑みとともにそう続ける。
「そうですね」
別の意味で詮索されそうだが、と思いつつうなずいて見せた。
「大丈夫だよ。今日、質問しに来たことになっているんでしょう? それについての資料を渡すと言えばいいだけだよ」
とりあえず、MSの動きとOSの関係についてか……と彼は言った。
「それはすごく興味があります」
自分達と同じ機体を使っているのに、キラの動きが違うのはそのためだとも聞いているし……とレイは言い返す。しかし、彼は『基本を身につけてから』と言って教えてくれなかったのだ。
「それは正しいですよ。でも……君ならそろそろ大丈夫かな、と思いますしね」
知っていたとしても勝手にシミュレーターのデーターを書き換えたりしないだろう。笑いながらそう付け加える。
「誰か、そんなことをしたのですか?」
「アカデミーではありませんけどね」
小さな笑いとともに彼はうなずく。
「……オーブで、ですか?」
「いえ。プラントですよ、一応」
それだけで犯人がわかったような気がする。
「全く、キラは……」
「おかげで、いろいろなデーターがとれたからいいことにしておいてください。僕もそばにいましたしね」
こう言われては、それ以上何も言えない。
「わかりました。おかげで、自分達はさらに高度なシミュレーションをできるのだ、と判断します」
「そうしてくれる?」
キラとは違う意味でニコルの笑みに勝てる人間がいるのだろうか。そう思いながらも、レイは小さく首を縦に振って見せた。